陰謀の血族

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 その日の午後。 偵察の為に、王都ファミールへ向った踊り子──レダニアは、閉鎖された城壁の外で、市中への潜入を試みていた。 高く聳える石積みの城壁は、四つある城門の内の三つまでもが閉ざされ──唯一残る城門には、王室付きの近衛騎士団による、厳重な検問が敷かれている。 物々しい空気の中、城門の前には、長蛇の列が出来ていた。 「一体、何があったんだ?」 「解らない。自由貿易のファミールが、こんな風に城門を閉ざすなんて、初めての事だ。」  荷馬車に乗った商人たちが、大声で話している。 列の前方には、エムル族のキャラバン──レガーテ隊の姿もあった。列に並ぶ者達は、一人一人検閲を受けながら、半分閉ざされた城壁の向こうへ入って行く。 レダニアは、腰に巻いていた長布(トーガ)を頭から被ると、人混みを縫って、列の前に進んだ。  エムル族のキャラバンには、大道芸人が多くいる。覆いを掛けない馬車の荷台には、芸に使う沢山の道具が、無造作に置かれてあった。 レダニアは、さり気無い風を装って彼等の馬車に近付くと、衣装箱から煌びやかな装束を一枚奪い、細い体に巻き付ける。顔には仮面を付け、何食わぬ顔で大道芸人の中に紛れ込んだ。
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