陰謀の血族

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──それから、小一時間程も歩いただろうか? 漸く辿り着いた王宮広場(パムレスク)は、まるで夢の様に美しい場所であった。その南側には、壮麗なクレメリア宮殿が見える。 霊峰エシュレ山を借景に頂いた、素晴らしい大庭園だ。一年中、色鮮やかな花々が咲き乱れ、風を孕んだ棕櫚柳(リュール)の木々が、優雅に身を揺らしている。 弦薔薇のアーチと、真っ白なガゼボ。 大理石で造られた人工池。 その中心には、水の女神レネの彫像が立ち、天に翳した両手から、清水が絶え間なく零れ落ちている。 この世のものとも思えぬその景色に、レダニアは、暫し圧倒された──しかし。視線を転ずれば、美しい光景とは全く不似合いなものが目に映る。 (あれは…) 褐色の踊り子は、途端に愁眉を歪めた。 広場の北側──石造りの舞台が設えられた上に、巨大な『断頭台』が()かれている。その隣には、石壁に囲まれた射殺場や、火炙りの為の鉄杭が立ち並んでいた。 あまつさえ、石畳には黒ずんだ大量の血の跡がある。 英傑王が玉座に着くまで──ここでは、多くの血が流されていた。死刑囚や反逆者の、公開処刑が行なわれていたのである。
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