絶望の夜

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「姉上、姉上!」 後を走る皇子が、前を行く姉に声を掛ける。姉姫は、後ろを振り向きもせずに答えた。 「お喋りは禁物よ、舌を噛むわ!」 「姉上、待って!少しだけ!!」 弟の渾身の叫びに、アリエスは漸く馬を止めた。荒く乱れる馬の息が、宵闇に淡く(けぶ)る。 「どうしたというの、セイラーン?? 王城まで、まだ16リーグもあるのよ。急がなければ、お母様が!!」 「解っています。でも、少しだけ。少しだけ、馬に水を飲ませて下さい。エール号が死んでしまいます!」
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