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ロシタナー平原を南北に貫く大河──アケローン川の畔で、二人は、馬に水を飲ませた。
この辺りは、夜になると野生の牙狼が彷徨く、危険地帯である。かと言って、無闇に火を焚けば、彼等を追跡する刺客に見付かってしまうかも知れない。
「離宮にも、追手が掛かっている頃でしょうか?」
賢しく推察するセイラーンに、姉姫は小さく頷いて言う。
「えぇ、間違いないでしょう。使用人達を逃がしておいたから、直ぐに、離宮が無人と解って…私達を追って来るわ。」
「城へ入る前に、街で情報を集めますか?」
「そうね…時間は掛かるけれど。正確な情報が無ければ、動きようがない。」
白い親指の先をキリリと噛んで、アリエスが答える。
父王が、誰の手に掛かって命を落としたのか──使者は、語らなかった。反逆者の正体を掴む前に城を出て、離宮へ向かったからである。
皇子と皇女に危険を知らせる為だけに、使者は、一命を賭して馬を走らせたのだ。
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