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「惨いことを──」
小さく呟いた言葉に、弟皇子が反応する。
「姉上?」
「…何でもないわ。行きましょう。追手に見付かっては、元も子もない。」
そう言って、ふと見上げた空は、既に闇色に支配されている。空の玉座を、夜の女神に明け渡した太陽神は、幼い皇女と皇子の事など、すっかり忘れている様に思えた。
──と、その時。
白い頬にポツリと一つ、雨粒が撥ねる。
「雨…」
掌を上に向ければ、今度はそこに雨が落ちた。
「雨だ…雨が降ってきた。」
セイラーンが、姉と同じ言葉を繰り返す。
この地に於いて、雨はとても稀有な気象現象だ。
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