絶望の夜

7/16
前へ
/307ページ
次へ
「惨いことを──」 小さく呟いた言葉に、弟皇子が反応する。 「姉上?」 「…何でもないわ。行きましょう。追手に見付かっては、元も子もない。」 そう言って、ふと見上げた空は、既に闇色に支配されている。空の玉座を、夜の女神に明け渡した太陽神は、幼い皇女と皇子の事など、すっかり忘れている様に思えた。 ──と、その時。 白い頬にポツリと一つ、雨粒が撥ねる。 「雨…」 掌を上に向ければ、今度はそこに雨が落ちた。 「雨だ…雨が降ってきた。」 セイラーンが、姉と同じ言葉を繰り返す。 この地に()いて、雨はとても稀有な気象現象だ。
/307ページ

最初のコメントを投稿しよう!

146人が本棚に入れています
本棚に追加