絶望の夜

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一方。豪雨の中、牙狼の襲撃を受けた幼い姉弟は、(まさ)に万事休すの局面にあった。 暗闇の中、襲い掛かって来る野獣の咆哮に、セイラーンは身動(みじろ)ぎも出来ず怯えている──と、その時であった。 パン、パパパパン!バン!! (まばゆ)い閃光と共に破裂音が響き渡り、驚いた牙狼の群れが、一瞬にして退散したのである。 「獣避けの…光玉(ひかりだま)?」 呆然と呟くセイラーン。 そこへ、トーチを掲げた男達が、大声を挙げて近付いて来る。 「おーい!」 「おーい、無事か──?!」 「おーい!!」  耳慣れた母国語が聞こえて来て──皇子は、安堵のあまり脱力した。馬上で意識を失い、大きく(かし)いで落馬する。 そこへ。素早く駆け寄り、華奢なその身体を、(あやま)たず受け止めた者がいた。 キャラバン隊の長──レヴァント・アドラーである。 …片や。倒れて気を失っていた皇女アリエスは、褐色の肌の若い女性によって、抱き上げられていた。全身泥に(まみ)れていたが、幸いにも怪我は無い。 こうして。クレメリア皇国の皇子と皇女は、キャラバン隊に拠って、運良く保護された。 激動の一夜が更けて行く。 それは、過酷な闘争の日々の幕開けでもあった。
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