闘争の朝

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 ──すると。 レヴァントは、刀傷の残る右頬を僅かに吊り上げて言った。 「あんた等と取引がしたい。」 「取引??」 「そうだ。うちのキャラバンは、総勢32名の大所帯だ。俺は、アドラー族の(おさ)として、こいつ等の老後の面倒まで見てやらなきゃならない。そこでだ。もしも、あんた等が、クレメリア王の敵討ちをするつもりなら、アドラー族が力を貸そう。その代わり、見事、本懐を果たした暁には、クレメリアの国土の一角を、アドラー族の領地として頂きたい。──如何かな、皇子殿下?」 「──それは、我々にお味方下さるという事ですか?」 半ば呆然と訊ねれば、黒髪のキャラバン隊長は、ニヤリと口角を吊り上げて答える。 「あんたに、その志があるならな。こちらとしても、命を張ったヤバい仕事(やま)だ。あんた等にその気が無いなら、ここでお別れだが──どうする?」 「………。」  半ば脅迫の様な『商談』であった。 だが、悪い取引ではない。皇子と皇女は、視線を交し合って頷いた。 「解りました。手を組みましょう。僕は、クレメリアの皇子として、父王を殺害した者を、この手で討つ。だが、それには仲間が必要だ。無事、本懐を果たした暁には、僕に与えられた南の領土──ラウール地方の一部を、アドラー族の領地として差し上げます。」  早い決断だった。だが、味方を得るには、またとない機会でもあった。セイラーンには、私設部隊が無い。皇太子への配慮から、第二皇子以下には、武力を持たせない慣わしがあるのだ。 レヴァントは、精悍な美貌に笑みを浮かべて手を差し出す。剣を持ち慣れた大きく骨ばったその手を──セイラーンは、馬上で握り返した。  …そして。この日交された盟約が、後に、彼等の運命を大きく動かす原動力になるのである。
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