傘を差しだす招待屋

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「あ…、あの……。」 俺は、うまく声が出せなかった。 近くで見る少女は、とても色白く痩せ細っていたからだ。 寒気が止まらないこの状況に、俺は一刻も早く立ち去りたく、慌てて屋根の外 に出ようとすると、少女は俺の腕を掴んだ。 俺はさらに驚きが隠せなかった。 色白いその腕は、まるで氷の水につかっていたかのような冷たさで、何よりそ の細い腕で強い力で俺の腕を掴んでいた。 「い…いてっ…!」 すると、少女は腕を離すと俺は慌てて腕を抑えた。 掴まれた腕は、血のように赤い跡がついていて、冷たさが伝染するかのように その部分だけ冷たくなっていた。 そして、ジワリジワリと後からやってくる痛さに、俺はさらに青ざめた。 「お…俺が、何をしたっていうんだぁぁぁぁぁぁぁ!!」 俺は、少女から逃げるように横切り全力で走った。 息が切れるくらい、汗が風で垂れ落ちるくらい、全力で振り切ろうとした。 すると、さっきまで顔に当たっていた雨は止み始めた。 俺は、雨が止み少女の姿もなく安心したはずなのに、何故だ…? 何故、こんなに胸騒ぎがする。 鼓動はさらにすごいスピードで加速していった。 『やはりお前も、逃げてきたかぁ』 「え…?」 すると、背後から聞こえたその声に振り返ったその瞬間、大きな怪物の口が映 り、俺の視界は暗闇におちいた。 寒くて暗いその中に、俺は永遠眠り続けた。 そして、そこから目を覚めることはなかったのだ。 『もう一人犠牲者がでてしまったわ。』 少女は、瞳から赤い涙を流した。 悲しみを越える涙は、やがて赤色に変わり少女は赤い傘を差しながら今日も歩 き続ける。 『これで1000人目。はぁ、いつになったら雨は止むのかしら。』 大きなため息をつき、歩き続ける少女を世の中ではこう呼ばれていた。 『赤い涙の死神』と……。
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