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達也にどう伝えればいいのか、美琴は迷っていた。美琴への思いは伝わってくる。ただ、宗介への気持ちは変わらない。それをどう伝えればいいのか。
宗介の立つ時計台に到着した美琴の目に、衝撃的な光景が飛び込んできた。ずぶ濡れの宗介を見かねたのか、達也が1本の傘を宗介と分け合っていた。
「美琴!」
美琴を呼んだのは達也だった。
──サイアクッ!
「美琴、この人がずぶ濡れでさぁ──」
達也が美琴に手を差し出す。その手が触れる。気づけばその手を振り払い、大声で叫んでいた。
「達也くん、ごめん! その人、私の元カレなんだ。で、やっぱり私、彼のこと忘れられそうにないから、彼に戻ることにした! 今までありがとう! そして、ごめんなさい!」
達也は隣のずぶ濡れ男を二度見した。
「えっ。そうなんだ──」
「ほんとに、ごめんなさい!」
宗介は事態が飲み込めず、目を丸くしている。
達也は、「なるほどね」と何度も呟きながら、ゆっくりと身体の向きを変えた。脱力した様子の達也は、そのまま一歩を踏み出した。
「彼氏さん。また、美琴さんを手放すようなことがあったら、その時は僕が奪いますんで」
そう言い残し、達也は駅の方向へと歩き出した。
「全部、宗介のせい!」
美琴の傘を強く打つ雨粒。再びずぶ濡れになる宗介。
「バカッ!」
「ごめん」
弱々しい足取りで美琴のそばに寄る宗介。
「傘、入っていい?」
「うん」
美琴の持つ傘に宗介が潜り込む。宗介は傘の手元を握る。美琴は手を離す。やっぱりこの傘に守られているのが一番落ち着く。
アイカサ。
美琴は宗介の肩に頭を寄せる。びしょ濡れのTシャツ。それでも気にしない。
歩き出そうとしたとき、宗介のスマホの着信音が鳴った。
「ん? 知らない番号だ」
「誰?」
「あっ!」
大学を卒業し、お互い別々の道を歩みはじめた。夢を追う宗介。会社員としての日々を過ごす美琴。美琴への劣等感が、別れを切り出すきっかけになったそうだ。
別れたのはいいものの、あまりの寂しさに、宗介はシェアリングの傘に電話番号を括りまくった。なんとその数、300本近く。さっき美琴が手にした傘に、宗介の電話番号が括り付けられていたのも頷ける。
「ねぇ。もしかして、電話、鳴り止まないんじゃないの?」
「そうかも」
「宗介って、ほんとバカだよ!」
自然と居酒屋へ向かっていた二人の足取りは、携帯ショップへと変更された。
「とりあえず、電話番号を変えなさい」
「はい」
足早に駅へと向かう人の群れ。美琴はもう一度、宗介の肩に頭を寄せた。
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