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あれから達也とは何度か遊びに出かけた。回を重ねるごとに、達也が美琴を思う気持ちが強くなっているような気がして、美琴は戸惑っていた。
「どうかした?」
達也が美琴の顔を覗き込む。
「え? ああ。ううん、どうもしないよ。それにしてもよく降るね」
「ほんと、よく降る」
ショッピングモールで買い物を楽しんだ帰り道。今日は一日中、ずっとどしゃ降り。
レストランが立ち並ぶ一角に向かって歩いているときだった。待ち合わせスポットになっている小ぶりな時計台の前。ずぶ濡れで俯く男性の姿が視界に入った。
それを見た美琴は、達也が持つ傘から抜けると、来た道を走り出した。達也が呼ぶ声が聞こえたけれど、振り返ることなく走った。
──駅前にコンビニがあったはず。
コンビニの店頭には、シェアリング用の傘が1本。美琴は慌ててそれをレンタルし、勢いよく開いた。
「うそっ!?」
驚きで思わず声が出る。傘の中棒には、またしても1枚の紙切れ。
「最近、これ流行ってんの!?」
早く戻らなきゃと焦る反面、電話番号が気になる。今かける理由なんてないのに、なぜか手には紙切れが握られていた。そして、気づけばキーパッドをタップしていた。
『もしもし』
──えっ?
『もしもし』
聞き慣れたその声。まさか──。そんなことってあるのだろうか。絶対に宗介の声だ。
「もしもし……。宗介、ですか?」
『え? 美琴?』
「うん」
『ほんとに?』
「ほんとだよ」
受話口からは弱々しい宗介の声が聞こえる。あれだけ雨に打たれてずぶ濡れになっていたら、誰だって体力を奪われる。風邪を引いているかもしれない。
「なにしてるの?」
『友だちと遊んでる』
「うそ──」
『ほんとだよ』
「ずぶ濡れのクセに……」
『え?』
「時計台の前にいるの見たよ」
『──ははっ』
鼻をすする音と同時に、宗介が虚しく笑う声がした。
『今日って俺らの付き合った記念日だよね。はじめてのデートの待ち合わせ場所だったココにいれば、美琴が来てくれるんじゃないかって……』
「バカじゃない──?」
男ってほんと勝手。そんなことするくらいなら、最初っから別れようなんて言わなきゃよかったのに。
ほんとだったら紙切れに書かれた電話番号をタップしたとき、宗介の名前がスマホに表示されてもよかった。でも、フラれた直後、あまりに悔しくて番号を消しちゃった。宗介への気持ちは消せないくせに、電話番号は消してしまう。そんな自分もバカだなと思い、美琴は小さく笑った。
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