六 大人

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 次の日、一朗はいつもより朝早く母親に起こされた。母はすぐにテレビを見ろと言う。画面には一朗の小学校が映っていて、学校に恨みをいだいた卒業生が、夜のうちに学校に爆弾を仕掛けて爆発させたというニュースが流れていた。犯人はすぐに逮捕され、教師の一人が軽く頭を打った、とのことだった。さっき学校から電話もかかってきたらしい。 「なんだ、そのことか」 と、当然一朗は思ったものの、言葉には出さず、両親の前では、おどろきおびえる演技を懸命にこなした。  登校してからも、最初にまず朝礼で事件の説明があり、五年生の教室は立ち入り禁止で、五年生は視聴覚室で合同の授業だった。早乙女先生は自分は爆発でたんこぶを作ったと信じこんでいて、なぜか少し授業がうまくなっていた。男鹿先生については、急に両親の介護をしなければいけなくなって、いなかに帰ったと説明された。  一朗は一日中周りに合わせて演技をしなければならなかったが、これも任務のうちだと思って受け入れた。それに、折りしもちょうど明日からゴールデンウィークで、休みの間に、さわぎは落ち着くにちがいなかった。  そして、放課後がやってきた。今日の超人たちの集合場所は、学校からややはなれた竹やぶになった。一朗が童鬼と超人たちに出会った、あの竹やぶとほとんど同じく、外から中は見通せない。こんな所に人が、それもヒーローがいるとは、だれも思うはずがない。 「あ……、百地くん、お疲れ様……!」 「遅いぞ、一朗」 「こんにちは。今日は大変だったでしょう」  子供姿の犬山、猿渡、木嶋の三人が、最後に竹やぶに入ってきた一朗に声をかけた。 「遅くなって、ごめんなさい……」  一朗が謝った。犬山はすぐに言う。 「五年生の教室全部、壊れてるんだもん、しかたないよ」  しかたない、か……、と一朗は思って、苦笑いをした。しかたないとは、ちょっとちがう気がする。必死で戦った、その結果なのだ。  さて、四人とも上着やズボンをぬいで、灰色のインナーとぶかぶかの背広のかっこうになると、木嶋がおごそかに言った。 「大童鬼をたおしたからといって、油断はできません。まだ影響が残っているかもしれませんし、童鬼は常に、生まれ続けます。わたしたち超人も、戦い続けなければなりません」  一朗はうなづいた。戦い続けてやる……。それが、超人の使命なのだ。 「それでは……。そうですね、では、レッド、かけ声をお願いします」  木嶋が一朗に言った。彼はふとした疑問を口にする。 「えっと……、どうして先輩は、リーダーなのに他の人に言わせるの?」  すると木嶋は、面食らったようになってから、苦笑いを浮かべて言った。 「……子供っぽくて、はずかしいからです」  他の三人は声を上げて笑った。犬山が言う。 「おっかしっ! 初めて知った!」  猿渡も言った。 「そこはお前、まじめにふざけるのが大人だろ~」 「ちょっとみなさん、声が大きすぎますよ……!」  木嶋はまゆの間にしわを寄せて言った。そうしてようやく四人とも落ち着いたころ、猿渡が手を上げて言った。 「ちょっといいか? ええっと~……、一朗」  一朗はわけも分からずぎくりとした。が、木嶋と犬山はふくみ笑いをする。猿渡は続けた。 「……見習いは卒業だ。今までガキあつかいして悪かったな。お前は、仲間だ。超人の、な」  一朗の目頭が熱くなった。彼はそれをごまかすように、上の方を見てきょろきょろした後、やがて他の三人の顔を順番に見て、こんな風に言った。 「こちらこそ、今後とも、ご指導、ゴベンタツ……、よろしくお願いします」  猿渡も、木嶋も犬山も、にっこりと笑った。一朗は深呼吸をすると、静かに、けれど力をこめて、こう言った。 「それじゃあ……、行きます……。変・身!」  ガッガッガッ!  日没が近づいていた。夜を先取りしたかのような暗闇の中、四人のかかとの打ち合わされる音が、人知れずひびきわたった。
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