本編

2/13
前へ
/13ページ
次へ
 私について、補足をしておきたい。  職業は看護師である。過疎化の一途を辿る地方都市で、中堅を担う総合病院に勤める、勤勉、実直、優秀の三文字が似合いの看護師――――と豪語できるならどんなに良いか。今でこそ中堅層と呼ばれる程度には経験を積ませてもらったが、四年前なんて特にいけなかった。  雨は嫌いだ。  その日も私は例年のように毒づいて、常備している鎮痛薬を規定外のスパンで飲み下していた。繊細な私は、雨との相性がすごぶる悪い。気圧の変化と比例して、頭痛の強度が上がる。梅雨真っ只中のその日は、頭痛に加えて吐き気も酷かった。だからといって、日勤を休めるほど、365日24時間看護師不足の病棟はぬるくない。さりとて、いつものように残業をこなす自信もなかった私は、定時に上がらせてくれるよう、出勤時に師長へ掛けあっていた。  新人の頃よりおっかない先輩、もとい、愛の鞭加減が絶妙なお姉様方にしごかれ、同期で比べると圧倒的な経験を積んだ私には、緊急の入院冴え受けなければ定時に帰れる自信があった。私が新人の時のプリセプターは、総合内科病棟の裏番と高名な、看護師経験十年目のお姉様だったのだ。生々しい医療現場に戸惑うばかりの幼気な新人看護師に向かって、 「染井が受け持って亡くなった患者さんでも、私が受け持つと亡くならないことがあるかもしれない。そうはならないように、めそめそ泣く暇があったら患者さんのために精進なさい」  そう追い打ちをかけるような鬼である。悪魔である。人でなしである。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加