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卒業から20年・再び地元で
その後、ぼくも結婚して子供ができ、ささやかな幸せを手に入れた。
気が付けば故郷とも縁遠くなっていたのだが、運命のいたずらか、地元の支店への転勤を命ぜられた。
単身赴任も考えたが、妻も子供もついてきてくれることになった。
さすがに実家で親と同居するわけにもいかず、支店の近くにアパートを借りた。
初夏のある陽射しの強い日、ふと実家に顔を出してみようと、地下鉄の駅からバスに乗った。
時刻表を見るといつの間にか30分に1本になっている。いろいろと事情があるのだろうが、一抹の寂しさを感じた。
バスは順調に走ってあの書店の前を通りかかった。すると、のぼりが立って店内の電気もついており、営業をしているようだった。
だれか別のオーナーが買い取ったのだろうか? 興味がわいてきたぼくはバスを降りて、その書店に寄ってみることにした。
「いらっしゃいませ!」
店員のおばさんの声には聞き覚えがあった。
そう……。あの時のお姉さんだ。
「こんにちは、あら、久しぶりですね」
顔のしわが時間がたったのを感じさせたが、いい歳の取り方をしているように思える。
もっとも僕もそろそろ抜け毛対策を考えなければと思っている。人のことは言えない。
店の中はあの頃とあまり変わらないように思えるが、同人誌などを扱うコーナーがあるのが印象的だ。そしてカウンターの奥にもう一人。おじさんではない男の人がいた。あの人が旦那さんだろう。
不思議なもので、20年も時間がたっているのを忘れて、あの頃の自分に戻ったようだった。
店内を見回すと、以前から気になっていた本があったので、カウンターの上に置いて、あの時とおなじように会計をして受け取った。
「それじゃあ、また来ます」
旦那様もいることだし、長居せずに店を出ようと思ったのだが、
「バス停まで、送っていきますね」
そういって傘を片手に、あの時と同じように外に出た。どうやら日傘のようだ。
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