エピローグ

1/1
44人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

エピローグ

「どうして、傘を持って見送ってくれるんですか?」  僕は気になったことを聞いてみた。 「私、本が大好きなんです。本って、大事にすると何年ももつものだけど、雨や太陽の光には弱いんです」  なるほど。と思った。でも一つの疑問がわく 「週刊誌の時でも見送ってくれたのはどうして?」  するとお姉さんは真剣な目をして答えた。 「週刊誌でも新書でも文庫でも同じです。作者さんや編集さんたちが心を込めて作った本ですから」 「あ、えと……」  彼女はさらに続ける。 「私は本当に本が好きなんです! だから、クラウドファンディングとかもやって、お金を集めてこの本屋を再開したんです!」  あまりの剣幕に僕はタジタジになってしまった。 「ご、ごめんなさい。だから傘を持って見送りをしてくれていたんですね」 「こ、こちらこそごめんなさい。本のこととなるとつい熱くなってしまって」  お姉さんは少しだけ落ち着いたようだが、なみなみならぬ情熱を感じる。少しでも本を大事にして欲しいから、傘を持ってまで見送っているのだ。  もうすぐバスが来る。僕はひとつ彼女に聞いてみた。 「お姉さん、今、幸せですか?」 「はい。幸せです。キミは?」  もういいおじさんなのに、キミといってくれたことがうれしかった。 「ええ、ぼくも」 「そうですか? よかったです。これからも幸せでいてくださいね」 「はい。お姉さんも」  一瞬だけ、今でも好きと言いそうになったけど、それを言うのはやめておいた。互いの幸せを壊してはいけない。そして、僕だけが特別というわけではなかったから。  バスが来て乗り込むと、おばさん、いや、お姉さんが手を振ってくれた。  その後、本を買うときは出来るだけあの本屋で買うようになった。そこにいるときだけは、おじさんとおばさんは「ぼくとお姉さん」に戻れる気がするからだ。  僕の行きつけの本屋には『傘』がある。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!