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エピローグ
「どうして、傘を持って見送ってくれるんですか?」
僕は気になったことを聞いてみた。
「私、本が大好きなんです。本って、大事にすると何年ももつものだけど、雨や太陽の光には弱いんです」
なるほど。と思った。でも一つの疑問がわく
「週刊誌の時でも見送ってくれたのはどうして?」
するとお姉さんは真剣な目をして答えた。
「週刊誌でも新書でも文庫でも同じです。作者さんや編集さんたちが心を込めて作った本ですから」
「あ、えと……」
彼女はさらに続ける。
「私は本当に本が好きなんです! だから、クラウドファンディングとかもやって、お金を集めてこの本屋を再開したんです!」
あまりの剣幕に僕はタジタジになってしまった。
「ご、ごめんなさい。だから傘を持って見送りをしてくれていたんですね」
「こ、こちらこそごめんなさい。本のこととなるとつい熱くなってしまって」
お姉さんは少しだけ落ち着いたようだが、なみなみならぬ情熱を感じる。少しでも本を大事にして欲しいから、傘を持ってまで見送っているのだ。
もうすぐバスが来る。僕はひとつ彼女に聞いてみた。
「お姉さん、今、幸せですか?」
「はい。幸せです。キミは?」
もういいおじさんなのに、キミといってくれたことがうれしかった。
「ええ、ぼくも」
「そうですか? よかったです。これからも幸せでいてくださいね」
「はい。お姉さんも」
一瞬だけ、今でも好きと言いそうになったけど、それを言うのはやめておいた。互いの幸せを壊してはいけない。そして、僕だけが特別というわけではなかったから。
バスが来て乗り込むと、おばさん、いや、お姉さんが手を振ってくれた。
その後、本を買うときは出来るだけあの本屋で買うようになった。そこにいるときだけは、おじさんとおばさんは「ぼくとお姉さん」に戻れる気がするからだ。
僕の行きつけの本屋には『傘』がある。
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