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勉のお父さんと僕が大輔たちの所に戻ったのは、もうすっかり日が落ちてからだった。
大輔は自分達を飢え死にさせるつもりかと怒ったその同じ口で、どっかで事件にでも巻き込まれたのかと思って心配したんだぞと正反対のことを言ってきた。
きっと大輔的には、どっちの言葉も真実なんだろう。
僕達は戻るのが遅くなってしまったことをひとしきり謝った後、四人で近所のレストランに食事に行った。もちろん勉のお父さんが御馳走してくれたんだ。
食事が終わった頃には、時間的に随分と遅くなってしまっていたため、僕らはその日は家に帰ることは出来なくなった。なので、勉のお父さんは僕と大輔の家に電話して事情を説明し、今夜一晩こっちで預かるという形にしてくれた。
大輔のお母さんは、「まあまあまあ」を連発し、かなり驚いていたみたいだけど、僕の父さんは落ち着いたもので、「息子をよろしくお願いします」と、なんだかムカつくくらい冷静に言ったらしい。
「それは晋くんがお父さんに信頼されている証拠だよ」
勉のお父さんはそんなことを言って僕を慰めてくれた。
「君は頭脳明晰で聡明な、素晴らしい少年探偵だからね」
やっぱり褒められている気がしない。
それって、僕に本当のことを言うなって無言の圧力をかけてる証拠だものね。
でもいい。
僕だってわかってる。
本当のことを言うのと、嘘をつきとおすこととどっちが正しいかなんて、そんなのはわかってるけど。でもわかってるからって、そう出来ないこともあるんだってこと。
勉のお父さんも、離婚の理由は最後まで言わないままだったけど、二人とも勉のことは大好きだから、と。それだけは繰り返し言い続けていた。
そして、来月あたりには迎えに行くから、それまではおばあちゃん家で待っていてほしいと約束していた。
「結局あいつ、転校生のまま行っちまうんだなあ」
勉とお父さんの会話を聞いていた大輔が、ちょっと残念そうにつぶやいた。
「もうちょっとしたら転校生以外のいいあだ名、思い付きそうだったんだけどなあ」
「それってどんな? 弐号機レベルじゃ勉くんは喜ばないよ」
「そっかー?」
勉のお父さんが敷いてくれた布団にパタリと寝転がり、大輔は天井を見上げている。
「でも、彼みたいな転校生はきっともう二度と現れないだろうから、今後新しい転校生が来ても、もう転校生ってあだ名は付けられないんじゃない?」
「……それはそうかもな。って、それを言うならお前もそうだけどな。晋」
「……え?」
「やっぱ面白いな。うちの学校。なんか変な奴ばっか引き寄せる力でもあるんじゃねえか」
「変な奴とは……失礼な」
「とびっきり印象強い奴だっていう、これは褒め言葉だぜ」
僕のことをはじめて名前で呼んだ大輔は、ニヤッと不敵にも見える笑みを浮かべた。
確かに僕も、今回の三人で体験したこの冒険譚は、一生忘れないような気がする。
もう両手でも数えきれないくらいの学校へ行ったけど、その中でもここは特に印象強い。
すぐに転校して行ってしまうとしても、また逢えたらいいな。逢いたいなと思える学校と、その友達が増えた。
ああ、確かに。
どんな状況であれ。
もしかしたら、もう二度と逢えないとしても。
それでも、何処かで。
何処かで元気に生きていてくれると思えるほうが倖せだ。
それだけは間違いない。
だから、きっと永遠に鬼灯ランプは届かない。
勉と、勉のお父さんの元には届かないだろう。
そんなことを考えながら、僕は祈るように目を閉じた。
終わり
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