[鬼灯ランプ]

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   *** 「おーい、転校生」  一瞬自分が呼ばれたのかと思って振り返りかけた僕は、慌てて視線を元に戻した。  そう呼ばれることを喜んで受け入れているとは言い難かったけど、それでも父さんの仕事の都合で転校を繰り返す僕に一番馴染んだあだ名は、いつの時も転校生だ。  それこそ北の北海道の学校でも。南の九州の学校でも。  なのに、この学校で僕は一度も転校生というあだ名で呼ばれることはなかった。  ただ、理由は簡単。  僕の入ったクラスにはすでに転校生というあだ名の少年がいたからだったんだけど。  その子の名前は、鈴木勉(すずき つとむ)。僕がこの街に来るより二ヶ月ほど前に転校してきた少年だ。  しかも彼の場合、当時というか今もだけど、同じクラスに鈴木くんも勉くんも存在していた為、苗字と名前のどちらで呼んでもややこしくなり、さらに外見内面両方において、すべてがあまりにも普通すぎて、誰もそれ以上の良いあだ名を思いつかなかった所為らしい。  太ってもいないし、痩せてもいない。身長もちょうど真ん中。勉強も運動もそこそこ。  すべてにおいて良くもなければ悪くもない。  あらゆる箇所において平均点。  ハブられてるわけでもないけど、人気者というわけでもない。  そして極めつけが、彼がこの学校にいるのは期限付き。早ければあと数週間でまた転校するかもしれないということが、彼がずっと転校生というあだ名になってしまった由来だった。  なんだかちょっと不思議な気分だった。  僕以外の子が転校生と呼ばれているということもそうだけど、僕みたいに数ヶ月で転校を繰り返すような子がほかにもいたなんてびっくりで。  まあ、彼の転校の理由が僕と同じであるわけはないんだけど。  そういえば、どうして彼がそんなふうに短い期間で転校をしなくちゃいけないのかっていう理由は、まだ聞いていなかった。  そのうち聞いてみようかな。  まあ、かくいう僕もどうせあと数ヶ月すればまた転校なんだろうけど。それまでは同じ転校生同士仲良くやっていきたいし。  というか、初めての同志。  みたいな気分なんだ。  転校生同志。  うん。いいかもしれない。 「おーい、弐号(にごう)もこっち来いよ」  今度こそ間違いなく僕を呼ぶ声が聞こえ、僕は席を立った。 「弐号ってなんだよ、それ」  そして呼ばれた先に駆けつけながら、とりあえず文句を言っておく。  僕をそう呼ぶのはこのクラスのガキ大将である本郷大輔(ほんごう だいすけ)という少年だけど、にしても人を号数で呼ぶとか失礼にもほどがあるとか思わないんだろうか。 「だってお前、転校生弐号だろ。だから略して弐号」  思わないんだろうな、これが。  本当にこれで悪気がないというのだから始末が悪い。そして逆に何故かこの呼び方が格好いいと言う奴らが多いことに辟易する。  どうも最近はやりのロボットアニメの影響らしいけど、僕の家にはテレビがないので、そういうのはよくわからない。  やっぱりいくら引っ越しが多いとはいっても、小さなテレビくらい持とうよって、今度父さんに言ってみようかな。  このままじゃ、世の中からどんどん取り残されてしまいそうだ。 「で、なに?」 「それがよ、今週末の宿題でやるグループ課題なんだけどさ。転校生ん家でやらないかって話が出ててさ、弐号も大丈夫か?」 「別に……いいけど」 「おし、弐号機も参上っと」  いつの間にか機まで付いてる。戦闘機にでも乗って登場しろとでも言うつもりだろうか。  まあそれでも繰り返し言うけど、彼らに悪気はないんだ。  これっぽっちも。  だからきっと、僕のほうが気にして僻んでいるだけなんだろう。  少なくとも彼らは、このグループ課題に率先して僕を招き入れてくれた貴重なやつらなんだから。
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