[鬼灯ランプ]

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   ***  その街は電車を乗り継いで二時間ほどかかる場所だった。  まだギリギリ僕らは大人の半額の切符で電車に乗れる年齢だったので、なんとか往復できるだけのお金を集めることは出来たけど、実行者は三人に絞られた。  当事者である勉と、言いだしっぺの大輔。そしていろんな地方へ行ってるから初めての土地でも物怖じしないだろうという理由で僕。  まあ、無難な人選だろう。  そして翌朝、僕達はほかのみんなに見送られて、意気揚々と電車に乗り込んだ。  親たちにはグループ課題の題目を電車に決めたから、ぐるっといろんな場所を電車に乗って見に行く必要があるんだ、ということで誤魔化した。  まあ、これは半分本当の話。  残ったメンバーで昔と今の線路や駅の様子の変化をまとめてもらうようお願いして、僕らは途中の駅で写真を撮ってくるという約束をしたんだ。  これで課題も無事クリアってわけ。  こういうのを一石二鳥っていうんだっけ。  そんなことを考えてる僕の向かい側の座席では、大輔が乗りあがるようにして窓の外の景色を眺めていた。  引越しが多いってことは、いろんな地方へ行ったことがあるということで。  つまり、僕はこの年にしては随分電車に乗っている子供だった。でも、大輔にとっては、今回の行程はちょっとした小旅行の気分なのかもしれない。  これからのことを考えると浮かれるのは控えた方がいいと本人もわかってはいるんだろうけど、それでも珍しそうに窓の外の景色を眺めるのをやめる気配はなかった。  まあ、僕もあえてそれを止める気もないんだけど。  ただ、さすがに勉だけは、ちょっと緊張した面持ちでいるのがわかったので、そっちはフォローが必要だろう。 「大丈夫」  こんなありきたりな言葉でどれだけの慰めになるのかはわからないけど。  でも、それでもなにも言わないよりは全然まし。 「大丈夫。君の気持ちは伝わるよ。お父さんもお母さんもちゃんと君の言いたいことわかってくれるよ」 「そう…だよね。ありがと」  にこりと笑った勉の顔を見て、チクリと胸が疼いた。  同じ転校生同志だけど、やっぱり僕と勉では立場が違う。  父さんの仕事が変わらない限り、僕の旅はこれからもずっと続くけど、勉の旅はうまくいけばきっと今回で終わる。  何故って、離婚を決めるとしても、やめるとしても、どっちにしてもきっと勉は両親の元へ帰って、そしてそれからはずっと同じ場所で暮らしていくんだろうから。  だから僕は、少しだけ彼が羨ましいのかもしれない。 「にしてもやっぱいいよな~、弐号は」 「……は?」  いきなりの大輔の言葉に僕の思考が止まる。 「なに? なにがいいの?」 「お前ってしょっちゅうこんな電車に乗って旅ばっかしてるんだろ。すげえうらやましい」 「う……うらやましい?」 「オレ、自宅から半径十キロメートル以上動いたことないんだぞ。こんな長く電車に乗ったのも初めてだし」 「そ…そうなんだ」  なんだか意外だった。  僕自身は嫌だと思ってる僕の境遇をうらやましいと思う奴もいるんだ。  もしかしたら大輔から見たら僕は、それこそロボットに乗って世界中を旅してるアニメの主人公みたいに見えているのかもしれない。  なんだか不思議だ。  同い年の僕らは、今、同じ電車に乗って同じ方向へ進んでいるのに。  そして、まったく同じ景色を見ているのに。  なのに、考えてることも感じてることも、それぞれ三人とも違ってて。  景色が変わる。  電車が揺れる。  ガタンゴトンって。  三人三様の想いを乗せて、電車が揺れた。
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