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***
空振りだった。
もちろん裁判所はちゃんとあったし、すぐに見つかった。しかもそこでは僕らは嘘をつくこともなく、正直に勉の両親が離婚調停をやってるはずなのでその場所を教えてほしいと言ったんだ。
なのに対応してくれたおじさん。スーツじゃなく制服を着てたんで、警備員っぽかったんだけど、は、そんなこと子供に教えられないと言い張るばっかりで、話にならなかった。
しかも、そもそも裁判所って土曜日は開いてないらしい。何人かは出勤してる人もいるようだけど、基本的には弁護士さんも検事さんも、もちろん裁判官なんてどこにもいない。
これ以上ないくらいはっきりとした無駄足。
それ以外の何でもない。
「どーする?」
どうしよう。
まるで既視感。
僕らはまたしても途方に暮れた。
ただ、三人共通の気持ちだけははっきりしてた。
その気持ちっていうのは、このまま帰るのだけは絶対に嫌だってこと。
でもだからってこれからどうすればいいかは誰も思いつかなくて。
「ねえ、どっちにしても今日も明日も裁判はないってことだよね」
勉がそう言って顔をあげた。
「ってことは、もう裁判所に乗り込むって案は無理だよね。学校休まなきゃいけなくなる」
「……あ」
そうだった。裁判所がやってる平日は、僕らも学校がある日ってことなんだ。
こんなことにも気付かないなんて。ああもう、大失敗じゃないか。
「くやしいな。父ちゃんに一発咬ませられねえなんてなあ」
「いや、別に喧嘩すること前提で来たんじゃないから」
大輔の言葉をたしなめはしたけど、僕だって気持ちは同じだ。
喧嘩をするつもりはないけど、喧嘩腰で乱入する用意は出来ていたのに。
大人の所為で苦労させられている子供代表として、言いたいことを言うんだと心に誓っていたのに。
「なんか怖い顔してるぞ。大丈夫か?」
気が付くと大輔が僕の顔を覗き込んでいた。
「珍しいな。お前がそんな顔するって」
「そ…そうかな?」
慌てて僕は二人に笑顔を向ける。
「これからどうしようかなあって考えてたから、なんか難しい顔になってたのかも」
「そっかー。だよなー」
僕達は申し合わせたように同時に大きくため息を吐いた。そして僕は顔をあげる。
もうこれしか思いつかない。
「じゃあさ。ひとつ提案。家に行ってみるっていうのは?」
「家に?」
「今日は裁判がないんだったら、少なくともお母さんは家にいるんじゃないかな」
「あ、そうか」
勉がなるほどと頷いた。
一番効果的なのは、裁判の最中に乗り込むことだったけど、それが無理っぽいなら、あとはもう、ちょっと格好悪いけど、家に行って直接ご両親に直談判しかない。
「あ、でもお母さん、昼間は近所のスーパーにパートに行ってるはずなんだけど」
「じゃあ、まずはそっちに行ってみる?」
なんかだんだん格好悪くなっていってる気がするのは気のせいだろうか。
裁判所に行くことを考えてた時は、格好良いと思ってたのに、なにが哀しくて近所のスーパーなんだか。
それでもいつまでもその場にいるわけにもいかず、僕達は重い腰をあげて裁判所を後にした。
なのに。
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