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(...どうする? この先、この娘が生きていくためには?...そうだ!!いい方法があるぞ!)
斎真は名案が浮かび、すぐにそれを口にした。
「桔梗さん! 出家して敬林寺に入りなさい!お師匠様には私から頼んでみるから!」
素晴らしい名案にニコニコ顔で桔梗の顔を見た斎真であったが、彼女の顔は暗く沈んでいた。
「...斎真様、お申し出は大変有り難いのですが...仏門に入って尼になれば、この長い黒髪をすべて切り落とさねばなりません。もし、切り落とすのであれば、やはり私はここで命を絶ちます!」
(えええーっ!?)
思いもかけない桔梗の言葉は、斎真を驚かせると同時に大いに迷わせた。
(髪は女の命とも言われるが、ここまでこだわる女も珍しい...元武家の娘なのに...いや逆に元武家だからなのか?...自身の命と天秤にかけてでも髪が大事なのか?...ええい!こうなったら思い切って!)
斎真はここで、自分でも驚くような発言をしてしまった。
「桔梗さん! それじゃあ、私の嫁になってくれ! 私が仏門を離れ農民として働いてそなたを養おう!」
言ってしまってから斎真は、
(しまった!和尚様の後継ぎはどうする!?)
と思ったが、それに対して娘は、
「はい!斎真様。どうぞよろしくお願いします」
と頭を下げたのであった。
......
(どうする?...和尚様には何て説明する?)
ことの成り行きに桔梗の手を引いて夜の裏山を下る斎真は困り果てていたが、寺の影が見えると腹をくくったのであった。
(...ええい!もう当たって砕けろだ!)
斎真が寺を出てきたとき寺の中は真っ暗であったが、もう夜中の時間であるにも係わらず、寺の本堂にはぼんやりと明かりが点いていた。
(おや?和尚様が起きてきたのかな?...ええい!もう今夜話してしまおう!)
桔梗の手を引く斎真は寺の境内へと入り、やがて本堂へ続く階段を上り、本堂の障子を開けた。
そこには本堂の如来様を前にして、煌煌と輝く三本の蝋燭の明かりの中、晴巌和尚が数珠の両手を合わせ静かに念仏を唱えていたが、斎真が入ってきたことに気が付くと後ろに向き直った。
「おや、斎真。こんな時間に散歩かい? おや?その娘さんはどなたじゃな?」
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