最終節 旅立ち

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『世の中は、男と女という二種類の人間がいて、子供が生まれ、村が出来、町が出来、やがては日ノ本の國が造りあげられます。 僧だけが女を拒み、女という人間を理解しなければ、いくら説法をしても、本当の意味で世の中の民を救うことにはなりません』 「なるほど...お前様の言うことにも一理ある。してお前様は何者なのじゃ?」 『私は睡蓮の化身、睡蓮の花の精であり、如来様の代弁者でもあります』 「なんと!如来様の!」 『すべての問題を解決する方法が一つあります。斎真さんをあなたの宗派から破門してください。そして斎真さんと娘さんの二人で新しい仏教の教えを全国に広めさせてやってください。三年間の布教の後、再び、このお寺に戻ってきてもらい、そのときその新しい仏教の宗派で、このお寺の後継ぎにしてやってください』 「なるほど...すると、儂の寿命は後三年ということなのかの?」 『はい、そうなります。ただし、それまでは体も健康を保ち、今日から三年と三日後に眠るようにあの世に召されることになります』 「して、その仏教の教えとは?」 『老若男女、身分に関わらず、すべての人を平等に扱います。 僧も尼も普通の民と同じように恋をして夫婦になることも許されます。 男も女も髪を切り、頭を丸めることも自由に選択できます。 人が生きるために必要な最小限の生き物の殺生は行いますが、人同士の殺し合いや戦さはしてはなりません。争いは未来の子孫に引き継がれてしまうものですから。 人には言葉というものがあります。言葉による話し合いであらゆる問題を解決する努力を怠ってはなりません...これらを基本の教えとするのです』 「睡蓮の花の精殿。あなたが(おっしゃ)ったことを必ず斎真に伝えましょう」 『お願いします。それでは、また三年と三日後にお会いしましょう』 *** 「...そう言い残して睡蓮の花の精は消えたのじゃ。斎真。その娘と夫婦となり、諸国行脚の説法の旅に出て、また三年と三日後に戻ってきておくれ」  晴巌和尚はそう言い斎真と桔梗の二人を見た。  斎真と桔梗は涙に濡れながらも、晴巌和尚と如来様に向かって頭を下げるのであった。 ......  斎真と桔梗が諸国行脚の旅の準備を整え、三日後の旅立つ日の朝に、晴巌和尚は言った。 「気をつけてな。頑張るのじゃぞ。睡蓮の花の精が守ってくださる。必ず三年後に戻ってくるのじゃぞ」 「晴巌和尚様!行って参ります!新しい仏教を広める旅に!」  そして、斎真と桔梗は諸国行脚の旅に向かって行った。                        おわり
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