最終節 旅立ち

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最終節 旅立ち

 本堂の障子を閉め、桔梗を座らせると、斎真は正座し、本堂の板の間に額をこすりつけて言った。 「晴巌和尚様!どうか私を破門にしてください!」 「おや、斎真。いきなり破門とは、一体何があったんじゃ?」  晴巌和尚の言葉に、斎真は昼間の出来事も含め、今までの経緯を全て包み隠さず晴巌和尚に告げた  昼間の出来事を話すことは、桔梗に聞かれていることもあり、大変辛かったが、ここは腹をくくらねばと斎真は思った。  さらに睡蓮の花の上の女の子については、見たのが自分一人だけなので、信じてもらえるかどうか大変不安でもあった。  しかし、斎真の話を聞き終わった晴巌和尚は、その後、思いもかけないことを言い始めたのであった。 「斎真。お前を我が宗派からは破門とするが、お前には別の宗派の僧となってもらいたいのじゃ」 「え!?晴巌和尚様。それはどういう意味なのですか?」  斎真は訳がわからず尋ねた。 「それはな、お前が帰ってくる直前まで、この本堂の如来様の蓮華座の上に、お前の話してくれた小さな女の子が座っており、その子とこんな問答をしたのだよ」  晴巌和尚は、先ほどまでの小さな女の子とのやりとりを話して聞かせてくれた。 「儂は夜中にふと目をさましたのじゃが、なにやら本堂の方で女の子の声がするのじゃ、それで床から出て、蝋燭をつけ本堂に来てみると、なんと如来様の蓮華座の上に親指くらいの小さな女の子が座っており、そんな小さな体にも関わらず儂にも聞こえるような声で話してくれたのじゃ。恐らく儂の心の中に直接語り掛けてきたのじゃろう...その女の子はまずこう言った」 *** 『和尚様、あなたの弟子の斎真さんは将来妻となる娘を連れて、まもなくこの本堂にやってくるでしょう』 「え!?そうすると斎真は仏門を外れる気なのか?」 『和尚様、若いころ、あなたは疑問に思ったことはありませんか?なぜ仏門の僧は女人(にょにん)に手を触れてはいけないのか?なぜ夫婦(めおと)となってはいけないのか?』 「確かに若いころはそう思ったこともある。それに逆らおうとしたこともある。じゃが、仏門の教えには女人禁制とあるので、いつのまにかそれを信じるようになった...しかし、現実はそううまくはいっていない...儂の一番弟子はやはり耐え切れず仏門を外れ女と逃げた。二番弟子は逆に女への情欲の煩悩を断ち切ろうと修業に励むあまり、滝に打たれ滝つぼに落ちて亡くなった...また、儂が知っている宗派の僧は情欲を満たすために男色に手を出した...あるいは、密かに僧と尼が内部で通じていたという話も漏れ聞いている...何とも情けない話じゃ」
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