Close the Nuclear Umbrella

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 俺の身長は一六五センチメートルなので、パイロット時代も特にGが苦になることはなかった。だが、俺は性格的に向いていなかったらしい。戦闘機パイロットとしてはイマイチパッとしなかった俺だが、学生時代の成績は非常に良かった。それで、二十年前に防大時代の指導教官から「研究科に来ないか」と誘われて、パイロットを辞めて母校に戻り、大学院生として物理の研究をすることになった。  そして修士の学位を取得した後、筑波の高エネルギー加速器研究機構(KEK)の総合研究大学院で博士号を取得し、その後も自衛隊に籍を置きつつしばらくそこで研究員を続け、三年前に母校の教官として採用された。だけど俺は未だにKEKでも研究を続けている。  その日、俺は市ヶ谷の防衛省本部にやってきた。 「やあ"ジン"、久しぶりだね。早速だが君の研究について、新たな進展があった、という話を聞いてね。ぜひそれを君の口から聞かせてほしいんだが」  統合幕僚長である笹井空将は、今だに俺を TAC ネームで呼ぶ。俺たちは彼の部屋で応接ソファーに座り、互いに向き合っていた。  防大の俺の二つ先輩でもあるこの人は、俺が所属していた小松基地第303飛行隊の当時の飛行隊長だった。俺の TAC ネーム「ジン」――俺の苗字「仁科(にしな)」の最初の一文字を音読みしたもの――を決めたのもこの人だ。切れ者だが面倒見がいい。 「分かりました、"ハル"さん」俺も彼を TAC ネームで呼ぶ。その由来は彼の下の名前「晴彦(はるひこ)」からだ。「実は加速器を原理的に全く異なるものにリプレイスしたんです。その結果、技術的な問題が一気に解決しましてね……」  この時の俺は、やがてこの研究が日本を危機から救い、さらに世界を大きく変えることになるとは、全く思いもしていなかった。 ---
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