Close the Nuclear Umbrella

8/13
前へ
/14ページ
次へ
「エネルギー充填、一二○パーセント!」  電力パネルを見ていた部下の長岡が叫ぶ。どこかで聞いたようなセリフだが、彼なりに茶目っ気を発揮したのだろう。  νキャノンは瞬間的に膨大な電力を消費する。リアルタイムにエネルギー供給するとしたら、関東地区をすべて停電にしないといけないくらいだ。まるで某アニメでポジトロンライフルが登場するシーンのようだ。なので、そのような状況にならないように予め電力を少しずつ超伝導キャパシターに貯蔵している。 「ミューオン粒子、速度上昇! 誤差修正、上下角、プラスマイナス二度!」  これはもう一人の部下の西島だ。こいつもこいつで「ミューオン粒子」なんて「IT技術」「チゲ鍋」みたいなことを言いやがる。誤差修正もとっくの昔に終わってる。もちろん彼もちゃんと「分かって」いてそう言っているのだ。  ここで室長の俺が「総員、耐ショック、耐閃光防御!」とでも言えばさらに盛り上がるのだろうが、あいにくそこまで連中の悪ノリに付き合う気にはなれない。実際、発射の際はショックも閃光も生じない。俺は淡々と宣言する。 「νキャノン、発射」  スイッチを押す。  何も起こらない。何も聞こえない。  しかし、この瞬間、νキャノンから目標に向けてミクロン単位の直径のニュートリノビームが発射されたのだ。それはほぼ光速で地球を貫き、最終的には目標の手前で直径一メートルほどの高エネルギー中性子シャワーに変わる。 「……当たったんですかね?」と、長岡。 「さあな」俺は肩をすくめる。しかし、その結果が届いたのは意外に早かった。一時間後、米軍から目標を撮影した衛星写真が送られてきたのだ。そこには、目標の山腹から吐き出されている黒く大きな煙が確かに映っていた。さらに、空自の観測機から、核爆発由来と思われる大気中の微量の放射能を検知した、という連絡も入ってきた。 「やった!」 「よっしゃ!」  長岡と西島が同時に気炎を上げる。俺も少し悪ノリさせてもらおう。大きく安堵のため息をつきながら、俺はオフィスチェアの背もたれに深く身を沈ませ、小さな声で呟く。 「νキャノンはダテじゃない……」 ---
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加