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「ほらっ、見てくださいこの眺め!夏はベランダから花火が見えるんですよ!」 私をこの部屋まで連れてきた不動産屋の営業マンは、興奮気味に鼻を膨らませた。 「セキュリティもバッチリですし、イチオシの物件なんですよー!」 入社二年目だという彼からは、会うたびに「元気」だとか「勢い」だとか、そんな若いエネルギーが伝わってくる。 「どうですか?見た感じ気に入りませんか?」 一人になった私が、看護師として勤め始めた病院からも近く、家賃も良心的。条件はすごくいい。 「そうね。ここにしようかな……」 私の希望を熱心に聞き、親身になって部屋を探してくれたこの彼とも、そろそろ会えなくなるのか。 「これ以上の物件が出てこなかったらここに決めちゃいますか?」 瞳を輝かせながら私を見つめる彼がまぶしいと思った。 一歩近づき呟いてみる。 「花火……、一緒に見てくれませんか。」 「え?」 聞こえなかったのだろう。彼が眉を上げて私の顔を覗き込む。 彼と視線が絡む。 ……美味しそう…… 私の中の何かが芽を出す。 「良かったら、ここで私と一緒に花火、見てください」 言いながら私は、 彼の首筋にかじりつくなら、どの角度からがいいのだろうか。なんて、 バンパイアみたいな事を考えていた。 終
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