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彼女が私に好意を抱いてくれているのは早い段階から気付いていた。 彼女は今日も、診察受付時間が終わる直前の誰もいなくなった待合室にふらりとやって来て、他愛もない話を小一時間披露して帰ってゆく。 近所の野良猫に名前をつけたとか。冷たい物ばかり食べてた同僚は腹を壊したとか。夜風呂に入る直前に服が裏表だったことに気付いたとか。 他愛もない話の合間に、胃痛の原因になる話題が挟まれてたりするけど、私はその一つ一つを丁寧に聞いた。 私は医者だ。 彼女の胃が早く治ればいいと思う。 けれど、彼女の話を聞くのはイヤではなく、むしろ永遠と続けばいいなんて思ってしまって、医者失格なんだろうかとこっそり悩む。 「先生またその困り笑顔ー」 そりゃあ困るよ。 私だって君に恋をしてるらしく、これはきっと両思いってやつだ。 そっと抱きしめてあげれば気持ちは通じ合うはずで。普通ならば幸せなことなんだろう。 だけど私は普通じゃないからますます困る。 君は年を取る。 私は年を取らない。 抱きしめて思いを伝えるなんて、私にはできない。 そう思っていた。
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