5

1/1
前へ
/14ページ
次へ

5

その日も私はいつものように、診察終了時間ギリギリで待ち合い室に飛び込んだ。 いつもとちょっと違っているのは、入り口に一組の履き物があるという事。これはまだ患者さんが一人残っているという事。 私は先生を驚かそうと思って待ち合い室で息を潜めていたけれど、ふと感じた違和感に、そっと診察室を覗き込む。 話し声一つせず、静まり返った診察室には、気を失っているらしい患者さんと、その首筋にかじりつく先生がいて。 驚いた私はその場から動けなくなった。 そして先生と目が合った。 先生の見開かれた目が途端に悲しげに潤む。 ああ、どうしよう。 私の大好きな先生は、どうやら人ではなかったみたい。 私はこの人をこの先も愛し続ける事ができるだろうか。 慌てふためく先生に、どんな言葉をかけたらいいのかわからなくて。 私はとりあえず 「私の血じゃあ駄目なんですか?」とヤキモチ混じりの台詞を呟いてしまった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加