雨音

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雨音

「相合傘のウンチク言っていい?」 ポツポツと頭の上で雨が傘にあたる音に耳を澄ましていると、ふと隣を歩く先輩がしたり顔でそんなことを言ったので、内心「またか」と思いながら俺は小さく息を吐いた。 「どうせ止めたって言うんでしょ?」 俺の言葉に彼女はニカッと歯を見せる。黒髪ロングで清楚な見た目に反して、彼女の笑顔は無邪気な少年を思わせる。 彼女はなぜか様々なことに関するウンチクを持っている。いや、持っているというかあらかじめ勉強して来るというか。だから、彼女が急に饒舌に自分の知識をひけらかすのはある意味いつも通りだった。 「相合傘ってさ恋愛関係を示すときに、よく描写されるやん?」 「まあ、そういうイメージですね」 「でも、昔は俗語で男女間の情交を指す言葉でもあったんやって」 「情交ってなんです?」 「…その顔はわかってる顔やな。ホンマキモいわ。しばらく私に話しかけんといて」 彼女はいかにも芝居っぽく苦い顔をしながら俺から距離を取ろうとする。が、もちろん傘の外の世界は天から数多の水滴が降ってきている。俺は雨の中をあえて傘をささずにはしゃぐ子どもを見る母親のような気持ちで「濡れますよ」とやんわりたしなめた。 すると、彼女は「それは困る」と言って、俺の傘の中に戻ってくる。見た目は大人っぽいのに、こういう子どもっぽいところがあるというのも、いわゆるギャップのなせる魅力というやつなのだろう。なんつーか、うん。キュンとするよね。
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