思い出を金庫へ

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思い出を金庫へ

 日差しが暖かさを増し、今までよりも一枚薄着で過ごせるようになった春のこと。  俺の大学生活は二年目に突入した。  所属している文芸サークル「猫だまし」では見習いから下っ端へとクラスチェンジし、単純に忙しさが増した。  例えば、猫だましには定例の飲み会が年に六回は予定されている。春を年度の始まりとして羅列してみると次の通り。春の新入会生歓迎会。夏休み前のしばらくお別れ会。夏休み明けの学祭決起集会。学祭打ち上げ。忘年会。新年会。これらの会場確保は二回生の仕事となっている。諸先輩方にはそれぞれの好みというものがあり、それを満たさねば説教は必至。六回にも渡って我儘集団の要件を全て満たす居酒屋を確保するのは至難の業である。しかも最終的にはどんちゃん大騒ぎになり、それなりに楽しく過ごすのだから、まさしく怒られ損と言えるだろう。 「後年、きっとお前らの助けになる。俺達も多分なる。そう信じなきゃやってられん」  これは、俺直属の先輩、同貫良吾(どうぬきりょうご)さんのお言葉だ。ありがたみなど一切感じないが、諦めが肝心というニュアンスは大変伝わってくる。  現在、「居酒屋化け狸」で開催されているのは新入会生歓迎会。通称新歓と呼ばれる宴会だ。  幸い今回はじゃんけんで勝利し、同じ二回生の鳥安と言う男が予約担当となった。俺は彼から詳細を聞き、チラシを作成する係。もちろん責任の全ては鳥安が背負うのだから気楽なものだ。  先輩の中にも面倒くささのランキングというものがある。当然、そのランキングとにらめっこしながら居酒屋を探すのが当然なのだが、鳥安はどうやらそれを怠ったらしい。寄りにも寄って面倒くさい先輩の筆頭を飾っている同貫さんのお眼鏡に、ここの飲み放題メニューは適わなかったのだ。  宴会が始まった直後に彼は呼びつけられ、説教を受けながら飲まされるというキツイお仕置きを受けていた。 「いいか、シソ焼酎はあるところにしろって言ってるだろ?」 「すみません」 「俺はな、シソ焼酎のお湯割りを飲まないと、調子が出ないのだ」 「すみません」 「すみませんって言えば許されると思うなよ。飲め」 「はい」  ずっとこの調子だ。  この宴会が終わるまで彼が無事でいられる可能性は、限りなく低かろう。まあ、俺が無事ならそれで良い。ちなみに主役であるはずの新入生達は、開始早々撃沈。横たわったり突っ伏したりしている。  それに、今の俺は鳥安の身を案じている余裕などどこにも無い。この宴会の一分、一秒を大切にせねばならないのだ。要因は俺の向かいに座る女子の先輩にある。
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