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二番手の憂鬱
「綺麗に男も女も関係ねえよ。おまえはそのままでいい。だから、俺のものになれよ」
そのままでいい。ずっと誰かに言われたかった言葉。女になりたいわけじゃない。でも、男を恋愛対象として見てしまう自分がいた。
「俺が受けとめてやる」
そして唇が優しく触れた。
目覚めると、僕は背中越しに貴樹の腕に包まれていた。
黒の遮光カーテンの隙間から、夏間近の熱を帯びた光が射している。
ベッドサイドの目覚まし時計に目をやると、六時五分前だった。いつも通りだ。泊まる時、貴樹は必ず六時に目覚ましをセットしてくれている。そして、僕はいつもそれより少し前に目覚める。時間なんて気にしないで、一緒に眠りを貪りたい。そんな綿菓子のような夢を、刻一刻と熱を増す漏れ陽が容赦なく溶かしていく。
タイマーをキャンセルして、起こさないようにそっと腕をほどく。ゆっくりと身体を起こし、僕とは比べものにならない太く逞しい二の腕をそっと人差し指でなぞる。そんなことをするから名残惜しさが増すのは毎度の後悔と分かってはいるけど……。けど、やっぱりしてしまう。
視線はなぞった先にある貴樹の寝顔に自然と向く。堀が深く、大きな二重の目は、閉じていると睫毛の長さが際立っている。ボウズ頭に長い揉み上げ、ワイルドな風を意識しているのかもしれないけれど、眠っている顔は男というより、まだ少年の色が濃い。
いけないと頭を切り替え、はだけた毛布を肩までかけ直してあげて、僕はベッドからなるべく静かに降りた。
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