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「若いの掴まえてんだから、浮気の一つや二つ文句も言う気はないわ。でもね、子供はダメ」
『子供はダメ』。淡々と語る口調に似つかわしくない、不穏な強調。
「だから、立て替える時に書かせた借用書の親の連絡先に電話してね、全部話してやったわ」
「なんでそんな!」
「カズちゃん。わたしにもね、許せないことがあるのよ」
僕に向けられた言葉と静かに見つめる目。あなたのことも全部知ってるのよと、刃を突きつけられた感覚に陥る。
「水曜日にはお母さんが札幌から弁護士連れてうちに来てね、立て替えたお金と迷惑料って、二百万円置いてったわ。その日のうちに孕ました子とも話をつけるとも言ってたわね」
「……」
「貴樹の家って、札幌で歯科医院やってるの知ってるでしょ? 世間知らずで、自分の尻拭いもできないボンボンなのよ」
僕は、「じゃあ、どうしてそんな貴樹を好きになったんですか!」との言葉は言えなかった。
「まあ、許せないがほとんどだけど、今またわたしが助けたら、貴樹はずっと駄目なまま。ここらでリセットする必要があったのよ。このままこの街にいたら、きっと大人になれないわ」
少し遠くを見るような目で話した言葉に、僕が言えなかった言葉の答えの一部が透けて見えたような気がした。
「貴樹はね、頼むからあなたには言わないでくれって泣いて頼んだのよ。落ち着いたら俺からちゃんと話すからってね」
「……じゃあ、なんで僕に……」
「それはね、わたしのプライドが傷つけられたから」
優しく微笑みながら、でも、大きな黒い目には僕も知っている色が浮かんでいた。
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