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受け入れざるを得ない現実
一年くらい前、貴樹が働いているダーツバーで初めて出会って、僕は一目で惹かれて虜になってしまった。
広い肩幅と、黒い半袖のポロシャツを押し上げる厚い胸板。そして、その上に見えるボウズ頭。身長も僕よりも十センチくらい高い。堀の深い優しそうな二重の目が、ともすれば厳つくなりそうな雰囲気を、穏やかで包み込むようなものに変えていた。
僕とはまるで正反対だった。小さな頃から見た目は褒められてきた。ただ、周りの評価と自分の評価が一致するわけじゃない。魅力的だと言われる切れ長の目も、中性的で物憂げだと言われる雰囲気も、僕にはコンプレックスでしかなかった。
そんな僕に無いものを、貴樹は全部持っているように思えた。
そして、つきあって二ヶ月くらい後に、綾さんの存在を告白された。きっと僕がもう離れられないと分かっていての告白かもしれなかった。悔しいけれど、実際その通りだ。本命がいると聞いても離れるなんて考えられなかった。それだけもう依存していた。初めて僕を認めてくれた人なのだから。
それと少しの優越感もあった。貴樹は僕とつきあってることはもちろん、バイセクシャルであることも綾さんには話していなかった。僕の細やかな喜びだ。それだけ信頼してくれてると思うから。
それからしばらくして、僕は綾さんに友達として紹介された。顔を通しておけば、変に勘繰ることもないだろうとの貴樹の考えだった。
狭間はうつろい易い。僕はうつろうことはできないけれど貴樹は違う。彼は自由で、そして眩しい存在だ。その光はいろんな人を惹き付けるだろう。
揺らげない僕の心を湿った風が揺らした。
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