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10月。少しずつ秋風が吹き始め、星空が暗くなり始めた。 庭の手入れをしている時雨を横目に、凪沙は彼の書いた本を読んでいた。 とつぜんどさりと音がして、時雨が土の上に倒れこんだ。 「時雨さん?」 身体を揺すっても反応がない。お手伝いさんも今日はいない。 慌ててスマホを取り出し、凪沙は救急車を呼んだ。持つ手が震え、声は聞き取れるか不安なほどに焦燥してしまう。 時雨の普段から白い肌は、病的なまでに青くなっていて。 「君、彼とはどういう関係?」 救急救命士の1人が時雨を担架に乗せながら凪沙に問いかけた。 とつぜんの質問に、なんと答えればいいのかわからず、 「えっと… 知り合い、です。」 凪沙はそう答えた。 「親戚の人と連絡取れる?」 「…いえ。」 知り合い、と言う言葉で表すには彼の存在は凪沙には大きすぎて、なのにその言葉でしか表すことができなかった。 現に凪沙は時雨の家のことなど何もしらない。 「とりあえず同行してくれるかな?」 「あ、はい…。」 何もできない自分が悔しくて、そして不安で、心が潰れそうだった。
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