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ネットの罵倒の雨から身を守りたい
ああネットのやり過ぎだ。ネット世界に浸りすぎているからこうなるんだ。
罵倒警報が出た。昨今の天気予報は個人も対応してくれる。罵倒の雨が降るのすら予想可能になっているのは便利なかぎりだ。
俺は好き放題言ったせいで罵倒の雨をくらうことになっちまったんだ。
ああ、耐えられない耐えられない。俺は打たれ弱いから罵倒の雨をなんとか防ぎたい。
俺がすげえ困っている時、商人が傘を持って現れたんだ。
「ただ今、お客様の元に罵倒警報が発生していますね!けれどもこの『カイタイ傘』があれば安心!罵倒の雨からお客様を完全に守ります!使い方は簡単!ワンタッチで傘が開きますので、ボタンを押していただき、開くだけ!全身を守るように傘をさしてください!」
「商人、ありがたい!さっそく買うよ!言うまでもない!」
「お代はあとでいいので、早速傘を開いてみてください!」
商人がそう言うので、俺は早速買った傘を開いたさ。この罵倒雨用の傘は一見、単なるビニール傘に見える。だが、その効果はすぐに確認できた。
罵倒文字でできた雲が俺の頭上に出現する。ざーざーと音をたてて罵倒の雨が降ってきた!
『死ね』『殺す』『くたばれ』
罵倒文句のフルコースだ。
だが、この傘が発する熱で罵倒文句は解体される。
『死ね』は『一』と『タ』と『ヒ』と『わ』と『の』に解体された。
『殺す』は『メ』『木』『几』『又』『十』『の』に分かれる。
『くたばれ』は『へ』『l』『十』『二』『L』『十』『の』『11』『z』『l』『し』に解体されるんだ。
解体された単語の雨を傘でしっかり受け止める!ゴツゴツと音は鳴っているが、解体されている文字の粒など痛くも痒くもない!
罵倒の雨が降り注いでも、罵倒文字を粒に解体しダメージを和らげ、傘を持つ人間への肉体的、精神的ダメージを和らげるんだ。
なんとすごい傘だ!
罵倒や誹謗中傷の雨から人を守る優れものだ、これは。
わざわざひらがなまで解体してくれるんだぞ!『れ』がなんで『z』『l』『し』になるんだ、おかしいだろ。文字をうまく識別できないAIか!とか、無粋なツッコミはいらねえんだ。
「ありがとう、商人!ちなみにお代はいくらなんだ?」
「カイタイ傘をご利用いただき、ありがとうございます!解体され地面に落ちた言葉粒をご覧下さい!」
商人がそう言うので、地面に落ちた言葉の粒を眺めてみたよ。
すると、どうだ。
なんと一部の文字が光っているではないか。
『メ』は赤く、『十』と『一』は黄色に、そして『l』と『二』と『の』は青色に光っている。
「こちらの光る文字を見ていただければ、ご理解いただけると思います!」
どういうことだ?商人がそう言うので、文字をよく観察してみる。
ひょっとして、これは…。
「赤く光る『メ』は『メ』じゃない!よく見たら『ナ』だ!黄色に光ってる文字は合わせて『カ』になる!そして青く光っている文字を組み合わせると『ま』になる!『ナ』『カ』『ま』…『仲間』の意味か!」
「正解です!よくぞ気付きました。傘をご利用いただいたお客様はお代として、我々の商人仲間になっていただきます!お仕事は簡単!罵倒の雨を降らせて、困っている人にカイタイ傘を販売するだけ!カイタイ傘は、罵倒文字を解体させるだけでなく、『買いたい』衝動をもたらす効果もあるので、販売は簡単!はじめての方でもすぐ販売できますよ、今回のように」
そう言って商人はニヤリと薄気味悪く笑うのだ。
俺は青ざめた。文字が信号の色に光っているということは、警告だったのだ。きちんと光を見ずに傘を使う俺のあさかはさよ。
ノルマとしてカイタイ傘20本を渡された俺は、罵倒文字雲の強制発生方法までご丁寧に教わってしまった。
ああ、もう引き返せない。
俺は、いとも簡単に商人の傘下に入ってしまったのだ。
(終)
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