そうちゃんの雨

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そうちゃんの雨

 今日もばあちゃんは、傘をもって外に出てしまった。 黄色い傘は少し黒ずんで、ちょっぴり悲しそうだ。  ぼくは黙ってばあちゃんの後についていった。お小遣いで買った、 黄色い傘をもって。ぼくとばあちゃんは、縦に並んでゆっくり歩いていく。  しばらくしたら、黄色い傘が、ぼくの後ろにもうひとつ。 それはママだった。ママはふふふと笑った。 「ママも付き合うわ」  もう少し歩いたら、また傘が増えた。今度はパパだ。 「ばあちゃんは、パパのお母さんだからね」  ばあちゃんを先頭に、黄色い傘が4つ、縦に並んだ。 通り過ぎる人たちが、不思議そうに見ている。  空が曇ってきた。そろそろ帰らないと、ばあちゃんが濡れちゃう。 風邪ひいちゃうよ。 「ばあちゃん、うちに帰ろう」  雨がぽつりぽつりと降ってきた。 ばあちゃんがゆっくりと振り向いた。にっこりと笑っている。 ばあちゃんの笑顔は久しぶりだ。 「そうちゃんの雨が降ってきたわ。雨が降ったら、そうちゃんと お散歩するのよ。かたつむりさんは、いるかしらねぇ」  うふふっと笑うばあちゃん。ぼくはここだよ、と言おうと したときだった。風がふわっと吹いて、ぼくの傘をもちあげ、 ぽろんと地面に落とした。黄色い傘がばあちゃんの足元に転がっていく。 「あら、そうちゃん。ここにいたのね」  ばあちゃんは、まっすぐ、ぼくを見ている。 「見て見て、そうちゃん。そうちゃんの雨よ」  ばあちゃんは、とても嬉しそうだ。ぼくも、嬉しかった。 「そうだね、ぼくの雨だね」  ぼくを見つめるばあちゃんの目は、とても優しい。 前と何も変わらない。 「ばあちゃん、帰ろう」 「そうね。早く帰らないと、そうちゃんが風邪をひいてしまうものね」  そっと出したぼくの手を、ばあちゃんはしっかりと握りしめた。 その手は温かい。ぼくの隣にママが並んで、ばあちゃんの横には パパが並んだ。今度は横に4つ、黄色い傘が並んだ。  ぼくたちは雨の中をゆっくり歩いていった。              了
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