第2話 こんなくだらないゲームを誰がさせるのか

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第2話 こんなくだらないゲームを誰がさせるのか

オサムは朝目覚めて、歯を磨いて顔を洗うことにした。 爽やかな一日をスタートさせるには歯を磨いて顔を洗うことが何よりも重要だ。それこそ、偉大な仕事を一歩でも進めるためには、小さな生活から固めなければならないのは言うまでもない。 だから、この選択肢を選んだプレイヤーは真っ当である。それが大事なのだ。真っ当さこそが世の中を作る。真っ当さのみで世界ができていたら、悲しい出来事などきっと起こらないはずだ。 ちなみに『こんなくだらないゲームを誰がさせるのか』というタイトルは『こんな整列を誰がさせるのか』という曲名のパロディだが、それを知ったところで大して意味はない。だいたいの人は何かのゲームに巻き込まれてるし、何かしらで並ばされているからだ。 真っ当な行動をとろうと試みたオサムの意思は悪いものではなかった。 爽やかな朝だ。窓からさんさんと爽やかな5月の太陽光が降り注ぎ、小鳥が鳴く初夏の声が聞こえる。新しい一日を始めるにはもってこいの日和だ。 オサムは銀色の歯ブラシを持って、歯を磨きはじめた。 YouTube動画を観ながら、何となく歯を磨いていたが、オサムは思わず力の加減をミスし、歯茎から血が出るほど強く歯を磨いてしまった。 「歯医者に歯茎から血が出るほど磨いたほうがいいと言われたが、朝っぱらから強く磨いてるとなんだかムカついてきた!くそが!」 オサムは歯を磨いただけで、地球を破壊したくなるほど強烈な怒りを覚えた。 オサムは冷静さを保つ為に、顔を洗う。予想以上に冷たい春の水がオサムの顔に無情な現実をくらわせた。 「顔を洗う為の水が冷たい!くそが!5月のくせに寒いし冷たいじゃねえか!」 オサムは水のあまりに冷たさに驚愕し、怒りが頂点に達した。 オサムは洗面所の鏡を拳でおもいっきり殴った。ゴン!鈍い音が鳴り、オサムはあまりの痛みに涙を流す。 「くそが!鏡の分際ですぐに割れないのか!」 あまりの怒りで、オサムは銀の歯ブラシで執拗に鏡を叩き、粉々に砕いた。 「ざまあみやがれ!俺は鏡を割ってやった!このくそ鏡がうそ見せやがって!俺はもっとカッコイイに決まってんだろうが!この俺がそんな不細工な面を公衆にさらしてるわけがねえだろうが!」 オサムは怒りにまみれて、世界中を罵倒したい気持ちになった。 「俺は偉大な芸術家なんだ!みんなもっと俺を誉めろよ!このくそ鏡が!玄関のでかい姿見も真実を映してない!こんなくそ鏡はうそに決まってんだろうが!」 オサムはそう言うと、パイプ椅子で玄関の姿見の大きな鏡を粉々に砕いた。 バリン!バリン! パイプ椅子を思いっきり振り回すオサムの表情は怒りに満ちている。 なんと面白いのだろうか!人が本気で怒っている瞬間ほど笑顔になれる瞬間はないと言えよう。 プレイヤーも、このくそみたいな展開に思わず笑みがこぼれてきたはずだ。 さあ、笑え!あっはっはっは! これが人生だ。 オサムは、玄関の鏡を粉々に砕くと、パイプ椅子を持ったまま、家の外に飛び出した。 「俺は天才なんだ!俺こそが美しく、存在が芸術なんだ!」 オサムはパイプ椅子を持ったまま、懸命に走った。 オサムは信号が赤の交差点に突入し、そのままトラックにはねられて死んだ。 ゲームオーバーだ。 こんなものだ。真っ当な選択肢を選んだはずであっても、ちょっとしたミスの連続で、あまりにも簡単に人生はゲームオーバーになってしまう。 今回の教訓だ。 「真っ当な選択肢を選んだからといって、真っ当な人生がおくれると思うな」 今回の入手アイテムは『パイプ椅子』だ。 さあ、こんなものだ。 とっととこんなゲームはやめて、現実に戻るといい。 まだこのゲームを続けたいくそみたいな暇人プレイヤーは第3話に進め。
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