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食べる元気があって良かったと美琴は心の中で安心する一方、ケガをしている子キツネの後ろ足がどうにも気になって仕方がない。
美琴は弁当箱からもう一つ、稲荷寿司を取り出すと子キツネの前に見せた。
すると味をしめた子キツネが、ふらふらとした足取りで稲荷寿司めがけて歩き出した。
稲荷寿司につられ、子キツネが階段下から出られる距離まできたところを、美琴はご褒美に稲荷寿司を食べさせる。
「あれ? よく見たら毛並みが白いんだね」
泥で汚れているが、よく見ると白くて毛艶が良い大層立派な子キツネだ。首もとには白い紐に通された翡翠の勾玉が日光に当たり、淡く光っている。
「もしかして誰かに飼われているのかな」
稲荷寿司を二個ほど平らげたためか、子キツネは満足そうな顔をしている。
「よしよし。そのまま、おとなしくしていてね」
今なら治療させてくれるかもしれない。そう思った美琴は子キツネを抱き上げると、片方の手でカバンの中を探る。
カバンの中にはちょっとしたケガでもすぐに治せるように、と母から持たされた治療道具が入っていた。
美琴は水が入った小瓶と清潔な布きれ、母が調合した塗り薬を取り出すと子キツネを抱いたまま、ケガをしている後ろ足を水ですすいで薬を塗り、布きれを巻いた。
「これで良し、良い子だね。数日もしたらケガも良くなるからね!」
「きゅぅん!」
「あははっ! くすぐったいよぉ!!」
子キツネはご機嫌なのか尻尾を大きく揺らすと、美琴にじゃれ合うように頬をぺろりと舐めた。
この子との出会いが、美琴の人生を大きく変える出来事だということを、今は知るよしもなかった。
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