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静寂なる川への誘い
じゃぶん、
大きな音をたてて、太一と船は天竜川の奥深くに沈んでいくようにして入っていった。
太一には意識が無く、ただ、船と1人の男が川の奥深くへと、沈んで行っただけであった。
ーーしばらくして、太一は目を覚ました。
川に沈んだはずの太一は、驚く事に、全く濡れていないのだ。もちろん、船霊のない船も湿ってもいやしないし、辺りが嫌に静かであって、起きているはずのない鳥たちの鳴き声や寺の鐘の音が遠くから奇妙に響くこと以外、何も無いのだ。
川は少しだけ広いところに出て、いよいよ可笑しくなったかと言わんばかりの木々の生い茂り方、全く自然とは恐ろしいものだと、太一は実感した。
この時、ふと太一は思った。
なぜ俺はこんな見たことのない川に居るのだろうと。
太一は、悩んだ。考えた末に出たのは、
「神の仕業だ。」
ということだった。
太一は、神様なんて信じない、居るわけないが、人前では信じた振りをする人間であった。
そのため現在の仕業を神の仕業と思い込むには、多少の理由と明確な頭が欲しいところだが、太一にはそんな頭は無いし、第一、考えることをやめた。
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