僕とトニー

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僕とトニー

「……っていう経験があります。あのひとはきっと、天国からの遣いだったんだ。だから僕はサンタもいると思います」 「ラファエロ・モーリス君、ご意見ありがとうございました。では反対派は、意見を――」 「十二歳にもなってよく夢じゃないと思い続けられるもんだ、ばかばかしい!」 「女男のラファエロ君らしいな」 「待って、今のは差別だわ! MtFにも、女性にも」 「出ました『差別です』女! このディベートの論点そこじゃないんだけど?」 「なんですって!」  ディベートの授業は好きじゃない。僕が発言すると必ず誰かが茶々を入れ、脱線し、紛糾する。そしてたいてい後で、大嫌いなムカデを靴に仕込まれる。  白熱する脱線ディベートを横目に、僕はこっそり席を離れて担任のペドロ先生に話しかけに行った。 「先生、用事があるので帰ってもいいですか」 「ディベートを放棄することは、相互理解と決断を放棄することです。認められません」 「骨折で入院中のトニー・マシューさんのお見舞いに行って、『KAWAII』カルチャーについて語る約束をしているんです。早くしないと面会時間が終わっちゃう」 「ふむ、友人は相互理解と決断の果実です。認めましょう」  中身も顔もさわやかなトニーは、同級生にも先生にも評判がいいのだ。 「ありがとうございます。失礼します」 「ですがラファエロ・モーリス。マシューさんにあまり余計なことを教えないように。それにあなたはもう少し、少年然とした恰好をしたほうがよろしい。少年でいられるのは今だけなのですから」  てきとうに返事をして教室を出た。  男の子がリボンのついたパンプスを履いて、チークをつけちゃいけないなんてルールはない。首都や海の向こうでは認められていることがどうしてあのクラスでは許されないのか、僕にはわからない。  こんなばかみたいなクラスに僕が登校拒否をせず通い続けているのはトニーのおかげである。トニーは僕が新しいメイクをすれば率直な意見をくれる。似合う、似合わない、の二択なのだけど、そんな服着る男はいないとか、メイクするなら女言葉を使えよ、とは言わない。  トニーは将来もっとモテモテになることだろう。僕の自慢の親友さ。
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