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暗雲
天気予報では一日中晴れだって言っていたのに、くもりにくもっている。今日のパンプスは少しかかとが高いから、降りだす前には帰らなくちゃだ。
そんなことを考えながら病院の敷地に足を踏み入れると、前から小さな女の子が走ってきた。トスカだ。
「ラファエロ……今までにいさんのお見舞いに来てくれてありがとう。でも、今夜が峠」
目を伏せるトスカに僕は、とんだジョークを言うようになったもんだ、と笑った。
「トニーは病気じゃなくて骨折でしょう。運動許可が出たら、テクノ・ダンスの練習を再開するんだ。来年こそ二人で大会に出場するよ」
「でも……」
口ごもったトスカが目を泳がせた。なんだろう、本当に様子がおかしい。そういえば、いつもは背中に括りつけているペガサスのぬいぐるみを、前向きに腕を回して抱いている。
胸騒ぎがした。
「トスカ、どうしてそう思うの」
「彼よ」
「だれ?」
「彼が来ているの。あそこ」
トスカが指さす先、病院二階西端を見上げて、目が飛び出た。灰色の変な形の仮面、灰色の裾の長いローブを身に着けたひとが、ちょうどトニーの病室の窓外のへりのところで、ゆうゆうと長座体前屈をしている。
考えるより先に、僕はトニーの病室に向かってダッシュしていた。
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