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看護師さんに捕まることなく二階西端の病室に飛び込むと、トニーがまじまじと僕を見てきた。
「どうしたラファエロ、ムカデと一緒にカエルを投げつけられたのか?」
「カエルは足が四本だからかわいいよ。ぜえぜえ……」
息を切らしながら窓に突進する。あのひとは同じ姿勢で窓の外に座ったままだ。僕のことなんて見えていないみたいに。
灰色のローブと仮面は、近くで見るともくもくと密集した雲の柄で、しかも雲は動いていた。今の空を投影したみたいだ。そして――傘。閉じた透明な傘を、両手ではさんで先端を空に向けて、くるくる回している。
違う部分もあるけれど、どう考えてもあのひとだ。
アンディの時は怖くなかったのに、今は背中がぞわぞわする。だって、このひとがもし本当に天国からの遣いだったら、どうして足の骨以外ぴんぴんしているトニーの近くにいるんだ?
窓をがらりと引き開けても、そのひとは傘を回し続けている。
「お帰りください!」
耳元で叫んだらようやく僕に顔を向けた。変な仮面のせいで表情はわからないけれど、少しだけ身体が跳ねたから、びっくりしたんじゃないかと思う。
「おいラファエロ、ムカデとクモをけしかけられて、遂にぷっつんしちまったのか? 落ちつけ、俺しかいないんだから泣いてもいいんだぞ」
トニーに心配そうな声をかけられた。まさか、見えていない?
「ラファエロ、にいさんは見えないよ」
心を読まれたようなタイミングにびっくりして振り返ると、トスカがぜえはあ息を吐いていた。心なしかペガサスまでぐったりしている。
「なんだ、トスカの死神ごっこに付き合ってくれてたのか」
トニーがへらりと笑った。
「ひどいんだぜ、こいつ。朝来て俺の顔見るなり、今までありがとう、死の運命には逆らえない、とか言ってくるんだ」
ああ、一緒に笑い飛ばせたらどれほど楽か!
「はは……あー、トニー……僕とトスカは死神退治の秘跡の準備をしなきゃいけないから、ちょっと席を外すね」
引きつった笑い顔を作るだけで精いっぱいだ。トスカの背中を押して病室を出ていく僕に、トニーは芝居がかった調子で言った。
「ああ、頼んだ我が友よ。どうかわたしをお救い下さい! あはは」
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