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ひとすじの光
人目のないところを探して行きついたのは、中庭のベンチだった。目の前には大きな花壇。晴れていた午前中なら花を見るひともいたのかもしれないけれど、小雨になりだした今、わざわざここに来る人はいないはずだ。
「彼は、だれかが死ぬとき、近くに出てくる。ラファエロも見えてよかった、わたしにしか見えないんだと思ってたよ」
ずっと悲しそうな顔をしていたトスカが、ちょっとだけ口の端を上げた。
「さすがににいさんの死を受け止めるのは、わたしだけじゃ辛かったの」
「ちょっと、ちょっといい? 僕はまだ、トニーが……その、信じられないよ」
トニーが死ぬ前提で話を進めるトスカに慌てて待ったをかけると、また眉を下げられてしまった。
「だって、彼が出てくるとみんな死ぬよ。ローブがくもりだったから、にいさんはまだ大丈夫だけど……」
「ローブの柄が関係しているの?」
「くもりならまだ大丈夫。雨が降ってると、近い。晴れたら、死ぬ。傘を開いたら、空に向かって綺麗な虹がかかるの」
「虹……」
アンディとあのひとが歩いていた道を思い出した。カラフルで、輝いていて――そうだ、壁を抜けて外まで続いていた。
冷や汗をかきながらも、僕は懸命に首を横にふった。
「ありえないよ、あんなに元気なのに」
「交通事故、一番たくさん見た。元気な小さい子も、猫も、彼が連れて行った」
「も、もしかしたら、間違えてるのかもしれない!」
「……間違えてる?」
トスカが目を丸くした。
「そう。病院だもの、別の病室と間違えて、トニーのところに来ているんだよ。そうに違いないよ」
「我らはさいごの雨が降る気配のもとに参上する」
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