二.

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二.

 町の商店街を抜けて、山の方に向かい少し急勾配の坂道を登ったところ。そこに彼の家はある。  図書館で発行するカード作成のために住所を知り得るのだが、亜沙が彼の家を知っているのは、 「僕の家はね、商店街を抜けて山の方にある坂道を登ったところにあるんだよ。周りは山だから木ばっかりある」 と本人が語るのを聞いていたからだった。一軒家であることも、そのときに聞いていた。  誕生日も趣味もろくに知らない男性の家に向かうなど、両親に知られたら間違いなく怒られるであろうし、佳奈にも言えずこっそりと来たのだった。 「……ここ、だよね。門まであるんですけど」  街灯と呼べるものはなく、門のところにあるランプがかろうじて明るく地面と表札を照らしている。月はちょうど雲に隠れてしまっていた。  表札には、確かにSAITA、とあきらの名字がローマ字で綴られている。 「……あれ? インターホンなくない? あれ?」
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