三.

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 予想通り、白金は簡単に袋を持ち上げた。亜沙は引きずっても持てなかったというのに。やはり男性はすごい。 「こんなに本を借りて、全部読めるんですか?」 「……読まないと、いけない、ので……」 「へえ。読書家なんですねえ」 「そんなこと……」 ―嘘は言ってないから!  誰に対してでもなく、心の中でそう訴えながら二人は並んで自動ドアを抜け外へ出る。 「亜沙ちゃーん」 「斉田さん!」  ひらひら、と手をふるあきらをみて、亜沙も少し声を張って答える。 「あ、ここまででいいですよ」 「そうですか。あの人がご友人の……?」 「あ、は、はい。斉田さんという人で、えへ……」  あまり情報を言わないほうがいいのではと思った亜沙は半笑いでごまかす。しかし、白金は斉田という苗字に聞き覚えがあったようだった。  あきらが走り寄り、袋を受け取ろうとすると白金は嫌だというように抱きかかえてしまった。 「えっ?! 白金さん?」 「斉田……」  あきらを見る目が、明らかに。不審者を見るそれだ。 「確か十冊もの合計十万円分の本をすべてダメにして返却してきたブラックリストの筆頭候補というあの……」 ―いや、何をやらかしてんだ斉田さん。  白金が真顔で告白するあきらの悪行に、彼女も苦笑いしかできない。  ブラックリスト筆頭候補、であって筆頭でないのが救いなのかどうなのか。救いだと信じたい。
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