一.

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 図書館司書である佳奈の口利きで特別にアルバイトとして雇ってもらっている亜沙としては、佳奈も、その上司も、そして館長も、従うべき人なのである。  あきらがかわいそう、という感情だけでペナルティを解除するわけにはいかない。もっとも、ペナルティが課せられるほど延滞する人はあきら以外にはいないが。 「分かった、分かった。今日は帰る」 「明日も来ないでください」 「来る」 「来んなっつってんだろ」 「僕に頼らざるをえなくなるよ」  思わず汚い言葉をいう亜沙にも、彼は調子を変えずなぜか自慢げに答える。彼女は不思議そうな目で彼を見つめた。 「ま、そのうち分かるから」  分かりたくもないのが本音だが、彼はようやく“じゃあね”と亜沙のいるカウンターに背中を向けた。
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