誘惑の傘

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 一週間後。またも大雨。 玄関口にて。 先週買った傘がなくなっているのを見て私は溜息を吐いた。この学校には精神的に大分問題のある人間がいるらしい…。コンビニの傘なら盗んでもいいと思っているのだろうか…。 傘立てには黄色い傘が一本。 「あれ、紗菜も残ってたの?」 コンビニに向かおうとした時、同じく残っていたらしい友人の一葉が後ろから声をかけてきた。 彼女は鞄から取り出した小さな折り畳み傘を広げる。…私も鞄に折り畳み傘入れてくれば良かった…。 私を見て状況を察したらしい。一葉は傘立ての傘を指して 「傘忘れたんなら借りれば?」 と言った。 「忘れたんじゃなくて盗られたんだけど…。」 「じゃあ、間違えられたのかもね。」 「間違うような外見じゃないんだけど…。持ち主がまだ残ってるのかもしれないからコンビニまで走るよ。」 「いや、待って。」 そのまま走り出そうとしたら思いっきり止められた。 「この雨じゃ二~三分とは言ってもかなり濡れるわよ。」 「大丈夫。先週も二回濡れたけど、風邪は引いてないから。」 「先週も二回やったの!?今夏服でしょう!?」 「…?だから濡れる枚数が少ないし…。」 肩を掴まれた。 「少しは透ける事を気にして!紗菜の体型でも興奮する人はいるのよ!」 …体型の事には触れないでほしい…。 「とにかく持ち主さんが来たら私が説明しておくから…」 「おい、何騒いでるんだ?」 玄関口の奥から野太い声。この声は男子体育の森重先生だ。 彼はこちらを一瞥して大体の状況を察したらしい。 「傘がないなら職員室から貸出し用の傘を持ってこさせるぞ。」 「お願いします。」 私じゃなく一葉が即答する。傘がないの私なんだけど…。 先生が携帯で貸出し用の傘を持ってくるように指示を出す。大体こういうときに使われるのは化学の八雲先生だ。…こういう場面で自分では持ってこないから、この先生は嫌われているのだと思う…。 二分程でガラガラと音を立てて八雲先生が傘立てを持ってきた。 「よし、ご苦労。」 森重先生はそう声をかけてから傘立てから一本私に手渡す。 「あら?」 傘を受け取った時に後ろから一葉の声。 振り返り彼女の視線を辿ると元々置いてあった傘立て。 しかし傘は一本も立っていない。 私達は顔を見合わせる。 「さっきの黄色い傘は?」 「?俺が来たときには傘立ては空だったぞ?」 森重先生の言葉通りなら一葉が私を止めている間という事になるが…。 「黄色の蛍光色に黒い柄の傘か?」 八雲先生が訊いてくる。 「そうですけど…。」 「…それなら、偶にある事だ。多分もう出ないから気にするな。」 …いや、そう言われたら気になるんですが…。 まるでお化けのような言い様だし…。 私達二人はそんな言葉を呑み込む。だってこの先生怖いんだもの…。平然とこの人を使役している森重先生は色々鈍いんだと思う…。 とにかく訊けるような雰囲気じゃなかったので私達はその日はそのまま帰宅した。
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