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「そんな感じって、何だかえらく適当だな」
いつもならはっきりしない物言いに苛立ちを感じるのに、何故か今はその曖昧さが心地よかった。思わず声に出して笑うと、少し離れた場所でも白い吐息が流れて、あ、志岐も笑ったんだと気付く。
「……志岐はさ、本気で思ってんの? 役者になれるって」
それを見ていたら、知らずそんな問いが口を衝いて出ていた。自分がとっくに諦めて見切りをつけたものを、今もなおひたむきに追いかけ続ける彼のような人間は、天羽にとって煩わしいのと同時に、それでもなお抗いがたい引力で惹きつけられずにはおれないまばゆい存在でもあったから。
「……俺が入部するときに話したことって覚えてる?」
質問に質問で返されてわずかにためらいつつも肯うと、しばし答えを探すふうに夜空を仰いでから、天羽にというよりはまるで月に語りかけるように志岐がゆっくりと口を開く。
「……あの舞台に出会うまで、俺には本当に何もなかった。ただ、このまま流されるように生きて、いずれ死んでいくんだろうなってそんなふうに漠然と思っていただけだった。──俺、昔からずっと声にコンプレックスがあって、そのせいでひとと話すのが大の苦手でさ。だから当然、友だちも全然できなくて。……考えてみたら天羽とだって、同じクラスなのにこんなに話すのって今日が初めてだよな」
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