【5000☆感謝記念SS】月に手を伸ばす

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 ──……でも、まさか、まさかそれが男だなんて思わないだろ。  いまだ隣で気持ちよさそうに寝こけている志岐を見て自然とため息がこぼれるのを禁じ得ず、グラスを傾けながらスマホの画面に表示された時間を確認する。……十五分か。少なく見積もってもまだもうしばらくは掛かるかな。  ──あのあと、自転車を並べて初めて帰宅の途をともにしながら、追及に追及を重ねてようやく志岐の口から「あの子」のことを聞き出したときには、何故か我がことのように胸が高鳴ったものだった。それって運命じゃねえの、とひやかす天羽に、まんざらでもなさそうにいやあ、と笑ってみせた志岐のあのだらしない顔を思い出すだに、果たしていったい誰がこんな未来を予想できただろうかと思う。  けれど、こうしてすべてが明らかになった今でも、不思議と志岐に対しての嫌悪感はまったくと言っていいほど湧いてこなかった。残念ながら、天羽にとって同性への恋愛感情というものはいまいちぴんとこないものだけれど、まあ、そういうこともあるよな、と割とフラットな感覚で受け止めることができた自分に内心満足している。  ──そう、何しろこれまでさんざんこの友人には驚かされ続けてきたのだ。そして、これからも、おそらくもっとたくさんの嬉しい驚きをもたらしてくれるのだろう。そんな彼ならば、天羽には決して手が届かないであろう月をもまたやすやすと掴んで、それを大事に大事にてのひらのなかで慈しむこともできるはずだ。 「──……きみが天羽くんか」
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