【5000☆感謝記念SS】月に手を伸ばす

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 声を掛けながら、いまだまどろんだ状態の志岐の身体を軽々と肩に担いで支えると、空いた方の手でテーブルの上に置いてあった精算用の伝票コードをさらっていく。 「あ、それ、俺の分も入って──……」 「手間賃だ。今日はこいつが世話になったな。きみも気を付けて帰れよ」 「『──でも、やっぱり好き』」  そのまま志岐を伴って立ち去ろうとする背中に、先程、寝落ちる直前に彼がつぶやいた言葉をぶつけると、虚を突かれたのか烏丸が胡乱げに振り返る。  ──……悪いな、志岐。でも、これくらいの意趣返しはさせてくれ。 「……だそうです。実は、申し訳ないですけど、あなたに連絡してからここに来るまでの時間を測らせてもらいました。──二十分です。思ったよりずっと早かったんで驚きましたよ。きっと、さぞかし慌てて出てきたんでしょうね」 「……何が言いたい」 「嫌だな、そんなに凄まないでくださいよ。ほら、論より証拠って言うでしょう? 俺はこれでも弁護士志望なので、曖昧な言葉でお茶を濁されるより、嘘やごまかしが効かない数字で、あなたが志岐をどれだけ大切に想っているのかを彼の友人として判断させていただいただけです。でも、おかげで安心しましたけどね」
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