360人が本棚に入れています
本棚に追加
/213ページ
「……ひよっこの友だちにしては、ずいぶん悪趣味なまねをする」
「あなたが志岐を不安にさせるようなことをするからですよ。彼、言ってましたよ。いつまでも子ども扱いしかしてくれないって」
忌々しそうな舌打ちを聞かせる烏丸にさらりと切り返してから、いくぶん口調をやわらげて最後のおせっかいと知りつつ進言する。
「痴話げんかなんて、それこそ外野が首を突っこむ問題じゃないのかも知れませんが、せめて志岐の言い分くらいは聞いてあげてやってくれませんか」
「よけいなお世話だ。──まあ、せいぜい頑張ってりっぱな弁護士になってくれよ、学生さん」
それだけ言い残すと、今度こそ振り返ることなくさっさと会計を済ませて自動ドアを出ていく。その背中を見送ってから、なるほど、あれは確かに手ごわいな、と友人のぼやきに大いに同調しつつため息を吐いたところで、ふと、テーブルに置かれたままになっていたスマホの存在に気付き、天羽は慌てて彼らのあとを追った。
「……っ、すみません。これ、志岐の──……」
階段の踊り場に差し掛かったところで、見覚えのある背中に掛けようとした声を、けれどすんでのところで飲みこむ。それから、そうっと手すりから下を覗きこむと、今にもくずおれそうな志岐の身体を壁に押し付けるようにして、ふたりがキスを交わしていた。
「……、……ん……」
最初のコメントを投稿しよう!