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──……うわ……。
出歯亀はまずいととっさに身を隠したものの、さすがに動揺が隠せずその場に座りこんでしばし呼吸を整える。今まで、恋人がいる友人たちの話を耳にするたびに羨ましいと思ってはいたが、いざこうして実物を前にすると、その破壊力は独り身の自分には想像以上だった。
……て言うか、いつ人目に付くか分からないこんな場所でよくもまあ……。
あのひと、やっぱりああ見えてかなり嫉妬深いんだなと先程の認識を改めて上書きするとともに、一瞬だけ聞こえた志岐の声がくすぐったそうな笑いを含んでいたことにほっとする。
……でもまあ、何だかんだで志岐が幸せならそれでいいか。
とりあえずスマホは明日にでもまた改めて届けることにして、ゆっくりと忍び足で階段を昇り明るい店内に戻る。心地よい酔客の喧騒に身を委ねながら、テーブルに戻ってひとり飲みかけのコークハイを呷ると、何故かあの夜のように胸の辺りがじんわりと温かくなった。
(完)
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